悲しきトカラ―平島生活記録 (ニュー・フォークロア双書)著者は東京生まれの「インテリ」作家。都会での生活にある種の幻滅を感じ、トカラ列島の平島に「逃避」する。そこで生活すること、実に13年間。結局、この著者はトカラからも「逃避」することになる。記述が実に具体的で細々と描写的。これはある意味ニッポンの農村そのもの。最近の「自分探し」をするために「農村に憧れる」青年諸君は、ぜひこれを読んでから決断した方がいい。
これを読むきっかけになったのは、先の日食騒ぎの際、トカラ列島(十島村)の村役場が、日食観察をしようとやってくる渡航者に対し法外な渡航ツアー料金を請求し、払わないヨットなどでの渡航者は不公平だとして島から退去することを求め、「不法渡航者」を摘発するために「山狩り」までしたという「事件」。それでかの地の風土に興味を覚えたもの。事件とは:
Letter from Arari Port: 日食:ヨットでトカラ列島に来てはいけないそうです
この本を読んで、なんとなく分かりましたよ。具体的記述は常に価値が高いのである。
それにしても面白かったのは、かの離島の土地相場。鹿児島県は、膨れ上がるばかりの離島の行政サービスコストを削減するために、離島の無人化を進めている。でも誰もそれに(離島に)応じない。ここで生活している限り一定の生活は保障されているからだ。土地を売るなら「坪4〜5万円」が相場だという(昭和40年代の話ですよ)。べらぼうな値段だと思うが、土地価格の「収益還元法」を広義に適応すれば、実に合理的な住民判断なのである。自分がその土地を活用していくらの利益を出せるか、それを金利で現在価格に換算したものが「収益還元方法」による地価であるが、「その土地に住んでいることでいくらの行政的補助金を貰えるか」という観点から収益換算すれば、昭和40年価格での坪4〜5万円も、大いに経済的にあり得る値段なのである。
ニッポンの「イナカバラマキ政策」は、こういうことからも、経済合理性を大きく歪曲させていることが分かる。これではニッポンは落ち目まっしぐら。実に勉強になった。
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